「大家と交渉しないと家賃は減らない」は誤解 台風25号で浸水した賃貸、家賃は

「大家と交渉しないと家賃は減らない」は誤解 台風25号で浸水した賃貸、家賃は"当然に"減額される

賃貸不動産

 柴崎 孝行

筆者 柴崎 孝行

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ペッターズ不動産コラム|賃貸不動産

「大家と交渉しないと家賃は減らない」は誤解
台風25号で浸水した賃貸、家賃は"当然に"減額される

民法611条が定める"当然減額"のルールと、罹災証明書・保険を使った実践的な対処法

2026年9月28日更新/読了目安 約15分

1. 台風25号、千葉・神奈川で住宅被害997棟 記録的大雨の全体像

2026年9月、台風25号は千葉県・神奈川県を中心に記録的な大雨と暴風をもたらしました。NHKニュースによると、9月24日時点の更新情報で死者11人・行方不明3人、住宅被害は997棟にのぼっています。

気象関連の記録では、東京都大島で24時間降水量686.5ミリを観測し、9月としては記録的な数値となりました(保険鑑定人のリアル現場ノートによる)。千葉県では北印旛沼周辺で堤防が決壊し、周辺一帯が広範囲に浸水する事態となったこともNHKニュースで報じられています。国道127号・16号などの主要道路も通行止めとなり、千葉県は24市町村に災害救助法を適用しました。なお、台風25号に先立つ9月上旬にも、台風第24号及び前線の影響による大雨で関東・近畿・東海地方に被害が出ており、国土交通省が継続的に被害状況を公表しています。2026年の9月は、月を通じて大雨・台風のニュースが続いた月だったと言えます。

災害救助法が適用されると、被災した自治体では避難所の設置や、住まいを失った方への応急仮設住宅の提供、医療・介助の提供といった支援が国の費用負担のもとで行われる体制が整います。千葉県が24市町村という広い範囲に同法を適用したことからも、今回の台風25号がいかに大規模な災害であったかがうかがえます。住まいに関わる支援策は、罹災証明書の取得を起点に動き出すものが多いため、次の章で改めて詳しく解説します。

死者・行方不明

11人・3人

住宅被害

997棟

24時間降水量(東京都大島)

686.5mm

災害救助法 適用

24市町村

被害の経過を振り返ると、台風25号は9月20日前後に関東地方へ接近し、22日から23日にかけて千葉県・神奈川県で被害が急拡大しました。千葉県北印旛沼周辺の堤防決壊による浸水に加え、成田空港周辺では鉄道の運行が乱れ、観光客が振替の京成線に殺到する様子もテレビ各局で報じられています。土砂災害による住宅被害も相次ぎ、国道の崩落など交通インフラへの影響も長期化しました。

このニュースを見て「うちは持ち家じゃないから関係ない」と感じた方も多いかもしれません。しかし、賃貸物件に住んでいる人にとっても、台風による浸水被害は決して他人事ではありません。実は、賃貸住宅が浸水して"使えない状態"になった場合、法律上、家賃が自動的に減額される仕組みがあることをご存知でしょうか。次の章から、その具体的な仕組みと、被災した場合に取るべき行動を順番に見ていきます。

今回被害が集中したのは千葉県・神奈川県ですが、記録的な大雨をもたらした前線や台風の影響範囲は関東地方全体に及んでいました。今回たまたま直撃を免れた地域でも、台風の進路が少し変わっていれば同じような被害が出ていた可能性は十分にあります。埼玉県内にお住まいの方も、「自分の住むエリアは大丈夫」と決めつけず、次に紹介する制度や備えを知っておくことが大切です。

2. 賃貸物件が浸水したとき、実際に何が起きるのか

台風や大雨で賃貸物件が浸水すると、床や壁、電気設備、給排水設備など複数の箇所に影響が及びます。国土交通省がまとめた「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」でも、賃借物の一部が使用できなくなるケースとして、浸水による電気設備の停止、給排水管の損傷、床・畳の張り替えが必要になるほどの水濡れなどが挙げられています。浸水の程度によっては、一時的に別の場所への避難を余儀なくされることもあります。

具体的な被害の例としては、床上30センチほどまで水が上がって畳やフローリングが張り替え不能なレベルまで傷んでしまうケース、分電盤(ブレーカー)が浸水して一時的に全館停電となるケース、排水管が逆流して汚水が室内に流れ込むケースなど、被害の内容や範囲は物件ごとに大きく異なります。中には、直接浸水しなくても、断水や停電が長期化することで実質的に生活できない状態が続く、といったケースもあります。さらに見落とされがちなのが、浸水そのものが収まった後の"二次被害"です。壁の内部や床下に水分が残った状態が続くと、数日から数週間でカビが発生し、独特のにおいやアレルギー症状の原因になることがあります。浸水があった場合は、見た目の水が引いた後も、十分な乾燥・消毒作業が完了するまでは油断しないようにしましょう。台風接近が事前に分かっている段階でできる備えとしては、土のうや水のう(ゴミ袋に水を入れたもので代用できます)を玄関や低い開口部に置く、貴重品や家電をできるだけ高い場所へ移動させる、といった応急的な対策も被害の軽減につながります。

このとき多くの入居者が抱く疑問が、「家賃はどうなるのか」というものです。「大家さんに事情を説明して、値下げをお願いしなければいけないのでは」と考える方が大半ではないでしょうか。実際、国土交通省の相談対応事例集によれば、賃貸住宅における水関連のトラブルは「上階からの漏水」だけでも相談全体の53.8%を占めるとされ、決して珍しい相談ではありません。同事例集では、こうしたトラブルの71.6%が最終的に「話し合い」によって解決していると分析されています。つまり、多くのケースでは裁判にまで発展せず、当事者同士の話し合いの中で家賃減額や見舞金などの形で決着しているのです。しかし、この"交渉して初めて減額される"という発想自体が、実は法律の建て付けと異なっています。

3. 「交渉しないと家賃は減らない」は誤解 民法611条の"当然減額"ルール

結論から言うと、賃貸物件の一部が使用できなくなった場合、家賃は借主が請求しなくても法律上当然に減額されます。根拠となるのは民法611条です。公益社団法人全日本不動産協会の解説によると、同条は「賃借人の責めに帰することができない事由により、建物の一部につき使用収益が不能と判断される場合」に適用され、建物自体が滅失していなくても対象になるとされています。台風による浸水で電気が使えなくなった、水道が止まった、床が水濡れで生活スペースとして使えなくなった、といった状況はいずれもこれに該当し得ます。

重要なのは、この減額が「大家に交渉して認めてもらうもの」ではなく、「法律上当然に発生するもの」だという点です。極端に言えば、大家側が減額に応じなかったとしても、法律上は使用不能割合に応じた分の家賃債務がそもそも発生していないことになります。もちろん実務上は、後述する証拠を残した上で管理会社・大家に連絡し、清算方法をすり合わせる必要がありますが、「お願いして値引きしてもらう」ものではなく「もともと発生していない家賃を精算する」ものだという認識の違いは、交渉の進め方を大きく左右します。

また、民法606条では、大家(賃貸人)には賃借物の使用及び収益に必要な修繕をする義務があると定められています。台風で設備が壊れた場合、まずは大家側に修繕の義務があり、入居者はその修繕を待つ間の家賃について、使えなかった割合に応じた減額を受けられる、という2段構えの権利があることを押さえておきましょう。「直してもらう権利」と「直るまでの家賃を減らしてもらう権利」は、どちらも入居者に認められた正当な権利です。

なお、この"当然減額"のルールが適用されるのは、あくまで「賃借人の責めに帰することができない事由」による使用不能に限られます。例えば、台風が来ることが分かっていたのに窓を開けたまま外出して雨が吹き込んだ、といった入居者側の過失が明らかな場合は、話が変わってくる可能性があります。今回のような記録的な大雨・暴風による浸水は、通常、入居者の過失とは評価されないケースがほとんどですが、原因の切り分けが必要になる場面もあるという点は知っておきましょう。

4. 2020年民法改正のポイント 請求主義から当然減額への転換

この"当然減額"のルールは、2020年4月の民法改正で明確になったものです。改正前の民法では、賃借物の一部が滅失した場合、借主は「減額を請求することができる」という請求主義がとられていました。つまり、借主が自分から声を上げなければ、家賃は減額されない建て付けだったのです。

これに対し改正後の民法611条1項は、「賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定めています。全日本不動産協会の解説でも指摘されている通り、この改正により「請求」という行為を介さずに、当然に賃料が減額される仕組みへと変わりました。ただし、この規定が適用されるのは2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約です。それ以前からの契約であっても、更新のタイミングなどで新法の適用対象になっている場合が多いため、契約書の内容と合わせて確認することをおすすめします。ご自身の契約がどちらに当たるか分からない場合は、まず契約書の「契約年月日」や、直近の更新契約書の日付を確認してみましょう。合意更新(当事者が新たに合意して契約を結び直す方式)の場合は、更新時点で新法が適用されるのが一般的とされていますが、法定更新(自動更新)の扱いについては契約内容によって解釈が分かれることもあるため、迷った場合は管理会社に確認するか、専門家に相談することをおすすめします。

また、減額される「割合」について、条文自体は具体的な数字を示していません。このため実務では、次の章で紹介する業界団体のガイドラインなどが目安として使われています。

なお、賃貸借契約の中には「天災による損害については家賃を減額しない」といった趣旨の特約が定められているケースもあります。しかし、こうした特約が常にそのまま有効になるとは限りません。消費者契約法では、消費者の利益を一方的に害する条項は無効となる場合があると定められており、賃借人に著しく不利な特約については、個別の事情によって効力が否定される可能性も指摘されています。契約書に特約があるからといって、それだけで減額の主張をあきらめる必要はない、という点は覚えておいて良いでしょう。

5. 減額はどれくらい?日管協ガイドラインの目安表

「使用収益できなくなった部分の割合」といっても、実際にどう計算すればいいのか分かりにくいのが正直なところです。そこで参考にされているのが、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)が公表している「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」(2024年10月4日改定版)です。法的な強制力を持つものではありませんが、大家・管理会社と入居者双方が納得しやすい"目安"として、実務で広く参照されています。

状況 賃料減額割合 免責日数
電気が使えない40%2日
水道が使えない30%2日
ガスが使えない10%3日
トイレが使えない20%1日
風呂が使えない10%3日
エアコンが作動しない月額5,000円3日
雨漏りによる利用制限5〜50%7日

具体的な金額でイメージしてみましょう。家賃9万円(1ヶ月30日換算で日額3,000円)の部屋で、台風の浸水により電気と水道がともに3日間使えなくなったとします。免責日数はいずれも2日のため、減額の対象になるのは3日目の1日分だけです。この1日について、電気40%+水道30%=70%相当額が減額対象となるため、「3,000円×70%=2,100円」がその日の減額目安になる、という計算イメージです。仮に浸水の影響がもっと長引き、電気・水道が7日間止まったとすると、免責日数を差し引いた5日分について同様の計算を行うことになります。なお、エレベーターや共用エントランスなど専有部分ではなく共用部分が浸水で使えなくなった場合も、生活への支障の程度によっては減額の考慮要素になり得ます。エレベーターが長期間停止し、上層階の入居者が階段のみでの生活を強いられるようなケースがその一例です。

あくまで目安であり、実際の減額幅は被害の程度や個別の契約内容によって変わりますが、「何もしなければ泣き寝入り」ではなく、具体的な計算根拠があるということは知っておいて損はありません。管理会社によっては独自の基準を持っている場合もあるため、まずはこのガイドラインの数字を"たたき台"として、実際の被害状況をすり合わせていく進め方が現実的です。

実際の精算方法としては、多くの賃貸借契約が家賃を前払い(前家賃)としているため、被害が発生した月にすでに満額を支払っている場合は、翌月分の家賃から減額相当額を差し引く形で調整するのが一般的です。逆に、まだその月の家賃を支払っていない場合は、あらかじめ減額後の金額を管理会社に確認したうえで振り込むとよいでしょう。いずれの場合も、金額の食い違いが起きないよう、計算根拠を書面やメールで残しておくことをおすすめします。

「うちの場合はどれくらい減額される?」まずはお気軽にご相談ください

6. 全部が使えなくなったら?契約解除という選択肢

浸水の被害が大きく、部屋の一部ではなく全体が使えなくなってしまうケースもあります。民法611条2項は、賃借物の一部が使用収益できなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は契約の解除をすることができると定めています。つまり、単なる家賃減額では済まないほど深刻な被害を受けた場合、入居者側から契約解除を申し出ることも法律上可能です。

この場合、敷金の精算や原状回復の範囲についても、通常の自己都合退去とは異なる整理が必要になることがあります。台風による浸水は入居者の過失によるものではないため、通常損耗や経年劣化と同様に、敷金から差し引かれるべき性質のものではないと考えられます。被害状況の記録を残した上で、早い段階で管理会社・大家に相談し、解除するのか、修繕を待って住み続けるのかを見極めることが大切です。特に床上浸水などで床材や断熱材にまでダメージが及んでいる場合、見た目以上に修繕に時間がかかることも珍しくありません。仮住まいが必要になった場合の引っ越し費用や仮住まいの家賃負担についても、被害の原因や契約内容によっては大家側との協議事項になり得るため、一人で抱え込まず、早めに相談することをおすすめします。なお、契約期間があらかじめ定められている定期借家契約の場合でも、使用収益ができない状態にまで至れば、普通借家契約と同様に解除を検討できる場面はあります。契約の種類にかかわらず、まずは被害の実態を正確に伝えることが出発点になります。

状態 代表的なケース とれる対応
一部使用不能一室のみ浸水、電気・水道が一時的に停止使用不能割合に応じた家賃減額(民法611条1項)
賃借目的を達成できない住居全体が長期間生活不能なレベルで損傷契約解除(民法611条2項)

7. 罹災証明書の取り方と使いみち

賃貸物件が台風被害を受けた場合、忘れずに取得しておきたいのが「罹災証明書」です。市区町村に申請すると、職員による現地調査を経て、被害の程度に応じて「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「一部損壊」といった区分で発行されます。一般的な判定基準では、損傷割合がおおむね50%以上で全壊、10%未満で一部損壊とされています。賃貸住宅に住んでいる人でも、罹災証明書の交付対象になります。

罹災証明書は、家賃減額の交渉における被害状況の裏付け資料になるだけでなく、被災者生活再建支援制度に基づく支援金の申請、税金や保険料の減免、公営住宅への一時入居など、さまざまな支援策の申請時に必要となる基礎資料です。全壊など著しい被害を受けた世帯には、基礎支援金と加算支援金を合わせて最大300万円(単身世帯は4分の3)の支援金が支給される制度もあります。

申請の流れとしては、まずお住まいの市区町村の窓口(防災担当や税務担当が窓口になっていることが多いです)に交付申請を行い、その後、自治体職員による現地調査を経て被害の程度が判定される、という順序が一般的です。申請時には本人確認書類に加え、被害状況が分かる写真の提出を求められることが多いため、片付けや修繕の前に、部屋の状況を写真に残しておくことが欠かせません。台風被害に遭ったら、修繕や片付けを急ぐ前に被害箇所の写真を撮っておき、できるだけ早く自治体の窓口で申請の手続きを確認することをおすすめします。自治体によっては、大規模災害時に申請期限を設けている場合もあるため、後回しにせず早めに動くことが肝心です。

なお、罹災証明書は原則として被害ごとに発行されるものであり、判定結果に納得がいかない場合には、再調査を依頼できる仕組みが設けられている自治体が一般的です。「思ったより軽い判定だった」と感じた場合は、そのまま受け入れる前に、まずは窓口に相談してみることをおすすめします。賃貸住宅にお住まいの方が申請する際は、賃貸借契約書の写しなど、その部屋に居住している事実が分かる書類の提示を求められることもあるため、あわせて準備しておくとスムーズです。また、被害が大きく自宅での生活が困難になった場合には、罹災証明書をもとに、自治体が管理する公営住宅への一時的な入居が案内されることもあります。案内の有無や条件は自治体ごとに異なるため、罹災証明書を申請する際に、あわせて住まいに関する支援策についても窓口で確認しておくと安心です。

8. 家財保険の"水災補償"、実は3人に1人が入っていない

台風による浸水被害では、家賃の減額と合わせて、家財保険(火災保険)の補償内容も重要な確認ポイントになります。損害保険料率算出機構の統計をもとにした調査によると、住宅を対象とした火災保険・共済全体の加入率は約82%とされる一方、そのうち水災補償が付いている契約は約66%にとどまるというデータがあります。裏を返せば、火災保険に入っていても、3件に1件程度は水災(浸水・洪水・土砂崩れなど)が補償の対象外になっている可能性があるということです。

火災保険(共済含む)加入率 82% うち水災補償あり 66%

出典:損害保険料率算出機構「火災保険・地震保険の概況(2023年度)」をもとに作成

賃貸物件の場合、建物自体の保険は大家側が加入していますが、家具・家電・衣類といった「家財」を補償する保険は、入居者自身が加入する家財保険でカバーする必要があります。ここでよくある誤解が、「建物のオーナーが火災保険に入っているのだから、自分の家電や家具が水浸しになっても補償されるはず」というものです。しかし、建物本体の保険と入居者の家財の保険は別物であり、オーナー側の保険が入居者の私物の損害を補償することは通常ありません。

賃貸借契約時に加入した保険の内容を、この機会に一度見直し、水災補償が含まれているかどうかを確認しておくことを強くおすすめします。保険証券には「水災」「水濡れ」といった補償項目が記載されているはずですので、契約時の書類を保管している方は、まずそこを確認してみましょう。家賃の減額はあくまで"住めない期間の家賃"を精算するものであり、水濡れで壊れた家電や家具そのものの損害を補償するものではないためです。

保険の種類 加入者 主な補償対象
建物の火災保険大家(オーナー)建物本体、備え付け設備
家財保険入居者(借主)家具・家電・衣類などの私物

このように、被害を受けた対象が「建物」なのか「家財」なのかによって、そもそも請求すべき先も異なります。台風被害の際は、家賃減額の請求先である管理会社・大家と、家財保険金の請求先である自分の加入保険会社の両方に、それぞれ連絡が必要になることを覚えておきましょう。

保険会社ごとに具体的な手続きの流れは異なりますが、一般的には、まず保険会社(または代理店)に連絡し、被害状況の写真や罹災証明書の提出を求められた上で、損害保険登録鑑定人などによる調査が行われ、支払い額が確定するという流れになります。台風などの大規模災害の直後は問い合わせが集中し、通常より時間がかかることもあるため、余裕を持って早めに連絡しておくことが大切です。

9. 泣き寝入りしないための証拠の残し方

家賃減額や保険金請求をスムーズに進めるためには、被害直後の記録がなによりも重要になります。まず、浸水した箇所や水位の高さがわかる写真・動画を、日付が分かる状態で複数アングルから撮影しましょう。スマートフォンの写真であれば、自動的に撮影日時が記録されるため、そのまま保存しておくだけでも有効な証拠になります。

次に、管理会社や大家への連絡は、口頭だけでなくメールやチャットなど文字で残る手段を併用し、いつ・何を伝えたかを記録しておきます。また、電気・水道・ガスなどのライフラインがいつからいつまで使えなかったのかという期間も、減額割合の計算に直結する重要な情報です。復旧作業に来た業者の作業報告書や、管理会社からの案内メールなども保管しておきましょう。国土交通省の相談対応事例集でも、賃貸借トラブルの解決には発生時期・被害の程度・使用不能期間を客観的に示す資料が重要だと指摘されています。

記録すべき項目を整理すると、次の4点に集約されます。(1)被害箇所の写真・動画(日付入り)、(2)管理会社・大家とのやり取りの履歴(メール・チャットのスクリーンショット)、(3)ライフラインが停止していた正確な期間、(4)修繕業者の作業報告書や見積書です。これらをひとつのフォルダにまとめておくだけで、後日の減額交渉や保険金請求、罹災証明書の申請がスムーズに進みます。

被害に気づいたら、遅くとも2〜3日以内には管理会社・大家に一報を入れておくことをおすすめします。連絡が遅れるほど「本当に被害があったのか」「いつからいつまで使えなかったのか」が分かりにくくなり、後の交渉が難航しやすくなるためです。もし電話やメールで連絡しても管理会社から返信がなく、話し合いが進まないような場合は、内容証明郵便で被害状況と減額を求める旨を書面で送る、という方法もあります。内容証明郵便には「いつ・どのような内容を送ったか」を郵便局が証明してくれるという特徴があり、後々トラブルが大きくなった際の証拠としても有効です。もっとも、多くのケースでは管理会社との丁寧な話し合いで解決するため、内容証明郵便はあくまで最終手段として検討すると良いでしょう。

ケースで見る対応の流れ

賃貸マンションに住むAさんは、台風による浸水で1階の玄関から居室にかけて床上10センチほど水が上がり、分電盤が浸水して3日間、部屋全体の電気が使えなくなりました。Aさんはまず被害箇所をスマートフォンで撮影し、管理会社にメールで状況を報告。並行して市区町村の窓口に罹災証明書の申請を行い、加入していた家財保険の会社にも連絡しました。電気が使えなかった3日間について、免責日数2日を差し引いた1日分の40%相当額が家賃から差し引かれ、水濡れで壊れた家電については家財保険から保険金が支払われました。「最初は大家に頭を下げてお願いするものだと思っていたが、当然の権利だと分かって心理的にも楽になった」とAさんは話しています。

10. 「一部滅失」と「全部滅失」実務・裁判例に見る考え方

家賃減額の議論では、「どこまでが一部使用不能で、どこからが全部使用不能なのか」という線引きも論点になります。国土交通省の相談対応事例集で紹介されている裁判例を見ると、その判断の幅がよく分かります。例えば名古屋地裁の判決では、天井や壁からの雨漏りにより「2階部分の少なくとも3分の2が使用できない状態」にあったケースで、賃料の25%減額が認められました。また東京地裁の判決では、トイレからの漏水とカビの発生により4ヶ月以上にわたって修繕が遅延した事案について、「通常の用法に従って使用収益することを阻害された」と判断され、賃料の30%減額が認められています。

これらの裁判例に共通するのは、被害を受けた部分の"広さ"だけでなく、修繕にかかった"期間の長さ"も減額割合の判断材料になっているという点です。浸水後すぐに修繕が完了した場合と、業者の手配が遅れて何ヶ月も不便な状態が続いた場合とでは、たとえ被害の程度が同じでも、認められる減額の考え方が変わってくる可能性があります。裁判実務では、雨漏りや浸水によって特定の部屋が使えなくなったケースについて、建物全体が滅失したわけではなくても、実質的に賃借目的を達成できないと判断されれば、契約解除が認められる余地があるとされています。一方で、被害が一時的なものにとどまり、修繕によって短期間で原状回復が見込める場合には、家賃減額にとどめて契約を継続するという整理がなされることが一般的です。

こうした裁判例からも分かる通り、減額割合や契約解除の可否は「被害の見た目の大きさ」だけで機械的に決まるものではなく、生活への支障の程度や修繕にかかった期間などを総合的に立証していく必要があります。逆に言えば、被害を受けた側が具体的な証拠を示せなければ、正当な減額を受けられないまま終わってしまうリスクもあるということです。前章で紹介した記録の残し方が、こうした場面で実際にものを言います。なお、話し合いがどうしてもまとまらず、金額も比較的少額にとどまる場合には、裁判所の少額訴訟制度を利用するという選択肢もあります。60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用でき、原則として1回の審理で判決が出るため、通常の訴訟に比べて手続きの負担が軽いとされています。もっとも、多くのケースはそこまでいかずに話し合いで解決しているのが実情です。

また、家賃減額と家財保険の保険金請求は、それぞれ別の制度であり、両方を受け取ったとしても「二重取り」にはあたりません。家賃減額は「使えなかった部屋の対価」を精算するものであるのに対し、保険金は「壊れた家財そのものの損害」を補償するものだからです。カバーしている範囲がそもそも異なるため、双方の手続きを並行して進めて問題ありません。

どちらに該当するかは、被害の範囲・修繕にかかる期間・生活への支障の程度などを総合的に見て判断されるため、「絶対にこうなる」という一律の基準があるわけではありません。判断に迷う場合は、自己判断で動く前に、消費生活センターや不動産の専門家、弁護士などの第三者に相談することをおすすめします。国民生活センターや自治体の窓口では、こうした住まいのトラブルに関する無料相談を受け付けている場合があります。

11. よくある質問Q&A

Q. 家賃減額は自分から言い出さないとダメですか?

A. 法律上は「当然に」減額される建て付けですが、実務上は被害状況を管理会社・大家に伝え、減額幅や精算方法をすり合わせる連絡は必要です。連絡をしないままだと、被害があったこと自体が伝わらず、通常の家賃が請求され続けてしまう可能性があります。

Q. すでに今月分の家賃を全額振り込んでしまいました。取り戻せますか?

A. 使用不能期間に対応する分は、法律上は発生していない家賃を支払ったことになるため、過払い分として返還や翌月分との相殺を相談できる可能性があります。振込明細と被害状況の記録を残した上で、早めに管理会社に相談しましょう。

Q. 台風のあと、大家から「修繕するまで待ってほしい」と言われました。家賃はそのままですか?

A. 修繕を待っている間も、実際に使用収益できていない部分については、原則として減額の対象になります。「修繕するから」という理由だけで、その間の家賃を満額請求され続けることを当然と考える必要はありません。

Q. ペットが浸水でケガをした、逃げてしまったなどの場合も補償されますか?

A. 家賃減額はあくまで「部屋を使えなかった分」の精算であり、ペットのケガや治療費、捜索費用などは別問題です。ペット保険や個人賠償責任保険の内容、管理会社側の管理瑕疵の有無などを確認する必要があります。

Q. 家賃保証会社を利用しています。台風被害の間の家賃も保証会社に立て替えてもらえますか?

A. 保証会社が立て替えるのは、あくまで契約上発生している賃料債務です。使用不能期間について当然に減額されている部分は、そもそも支払う必要のない金額であるため、保証会社を通じて余分に支払ってしまわないよう、管理会社との間で正確な請求額を確認しておくことが大切です。

Q. 契約書に「天災による損害は家賃を減額しない」という特約がありました。あきらめるしかないですか?

A. そうした特約があっても、内容によっては消費者契約法などの観点から効力が制限される可能性があります。特約があるからとすぐにあきらめず、被害状況の記録を残した上で、管理会社・大家と話し合い、必要であれば消費生活センターなど第三者機関にも相談してみましょう。

Q. 浸水の原因が、以前から傷んでいた排水管など、大家側の管理不備だったようです。何か違いはありますか?

A. 家賃減額の考え方自体は、原因が台風であっても設備の老朽化であっても基本的には同じです。ただし、大家側の管理不備が明確な原因である場合には、家賃減額にとどまらず、修繕の遅れによって生じた損害について、別途賠償を求められる可能性も出てきます。被害の原因がどこにあるのかも、写真や修繕履歴などの記録から分かる範囲でメモしておくと良いでしょう。

Q. 浸水した部屋に住み続けるのが不安です。仮住まいの引っ越し費用は誰が負担しますか?

A. 法律上、当然に費用負担が決まっているわけではなく、被害の原因や契約内容によってケースバイケースです。まずは罹災証明書の取得や火災保険(水災補償)の請求可否を確認し、そのうえで管理会社・大家と仮住まい費用の扱いについて協議することになります。

12. まとめ 台風シーズンを乗り切るチェックリスト

ここまでの内容を振り返ると、ポイントは大きく3つに整理できます。1つ目は、台風などの災害で賃貸物件の一部が使えなくなった場合、家賃は民法611条により交渉不要で当然に減額されるということ。2つ目は、日管協ガイドラインのような目安を使えば、減額の割合をある程度具体的に計算できるということ。3つ目は、罹災証明書の取得や家財保険の請求、証拠の記録といった一連の手続きを、被害発生後できるだけ早いタイミングで並行して進めることが、その後の生活再建のスピードを左右するということです。

台風25号がもたらした記録的な被害は、千葉・神奈川だけの話ではありません。日本気象協会tenki.jpの予報士解説では、10月はじめにかけて台風26号の影響を関東地方が受けるおそれがあると伝えられており、次の大雨・台風シーズンへの備えは決して先延ばしにできない状況です。万が一、賃貸物件が浸水などの被害を受けたときに慌てないよう、次の点を今のうちに確認しておきましょう。

保険を見直す加入している火災保険・家財保険に水災補償が含まれているか、保険証券で確認する
連絡先を控える管理会社・大家の緊急連絡先と、修繕依頼の窓口をスマートフォンに登録しておく
記録の準備被害時に写真・動画をすぐ撮れるよう、スマートフォンの空き容量を確保しておく
制度を知っておく民法611条により家賃は当然に減額され得ること、罹災証明書の申請窓口を把握しておく

これらを事前に押さえておくだけで、実際に被害に遭ったときの対応スピードと、その後の交渉のしやすさが大きく変わります。「家賃は大家にお願いして下げてもらうもの」ではなく、「使えなかった分は、もともと支払う必要のない家賃だった」という考え方を知っているかどうかは、いざというときの気持ちの持ちようにも大きく影響するはずです。

また、犬や猫と暮らしている方は、台風接近時にペット用の同行避難グッズ(キャリーバッグ、数日分のフード・水、ケージ、常備薬など)もあわせて備えておくと安心です。浸水で室内が急に使えなくなった場合、人だけでなくペットの避難先の確保も同時に考える必要が出てくるためです。

これから物件探しをする方であれば、国土交通省が公開している「重ねるハザードマップ」(ハザードマップポータルサイト)で、住所を入力するだけで浸水想定区域や過去の浸水実績を無料で確認できます。1階よりも上層階を検討する、低地よりも周辺よりわずかでも高い土地を選ぶ、といった視点とあわせて、契約前に一度チェックしておくことをおすすめします。こうした情報は、いま住んでいる部屋のリスクを把握する目的でも活用できます。ペッターズ不動産では、賃貸物件の設備トラブルや契約に関するご相談はもちろん、ペットと暮らせる住まい探しについてもお手伝いしています。台風被害でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

台風被害・賃貸のトラブルは、ひとりで抱え込まないでください

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出典・参考資料

  1. NHKニュース「台風25号 千葉と神奈川で11人死亡3人不明 北印旛沼で堤防決壊」(2026年9月23日)
  2. NHKニュース「台風25号被害まとめ 千葉と神奈川で7人死亡5人行方不明 道路崩落も」
  3. 保険鑑定人のリアル現場ノート「【台風】2026年9月 台風25号による大雨・暴風〈24時間降水量686.5mm〉」
  4. 国土交通省「災害・防災情報:令和8年台風第24号及び前線による大雨による被害状況等について」
  5. 公益社団法人全日本不動産協会「大規模災害による使用の一時不能と賃料減額」
  6. 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「日管協版『貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン』改定のお知らせ」
  7. 国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集~賃借物の一部使用不能による賃料の減額等について~」
  8. 国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」
  9. マネーサロン「火災保険の加入率は82%|未加入リスクと補償別の加入実態」(損害保険料率算出機構データに基づく)
  10. 防災エナジー「罹災証明書とは?発行までの流れや主な支援制度もわかりやすく紹介」
  11. 法務省「少額訴訟手続について」
  12. 国土交通省「ハザードマップポータルサイト(重ねるハザードマップ)」

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