
【完全版】ペットの咬傷事故、賃貸住まいで飼い主が負う責任とは。24時間以内の届出義務・判例・賠償額まで徹底解説
もし、うちの子が誰かを噛んでしまったら。
賃貸住まいの飼い主が負う法的責任のすべて
24時間以内の届出義務・実際の判例・賠償額の相場まで、法律とデータで正確に解説
「うちの子は大人しいから大丈夫」——多くの飼い主さんがそう思っています。しかし環境省の統計によると、犬による咬傷事故は年間4,000件を超えて発生しており、その9割以上が実は「飼い犬」によるものです。集合住宅で暮らす以上、エレベーターや共用廊下ですれ違う瞬間に、誰にでも起こりうるリスクです。この記事では、咬傷事故が起きた場合に飼い主が負う法的責任を、条文・判例・実際の賠償額まで正確に整理してお伝えします。
① 咬傷事故はどれくらい起きているのか
環境省の「動物愛護管理行政事務提要」によると、犬による咬傷事故(噛みつき事故)は令和4年度に4,423件発生しています。2019年までは4,200〜4,300件台で推移していましたが、直近では4,400件台まで増加傾向にあります(出典:環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和4年度版)」、楽天保険の総合窓口「愛犬が人や犬を噛んでケガをさせたら?」を基に構成)。
特に注目したいのは、噛みついた犬のうち9割以上が「飼い犬」だったという事実です。野良犬ではなく、日常的に人と暮らしているペットが加害動物になるケースが大半を占めています。事故が発生する状況としては、ノーリードでの散歩中はもちろん、リードを着けていても犬を制御しきれなかったケースも報告されています(出典:同資料)。
被害者についても見逃せないデータがあります。別の統計では、被害者の多くが飼い主・家族以外の第三者であり、公共の場所で散歩させている最中に発生するケースが多いとされています(出典:弁護士保険ステーション「犬が他人に噛みつきケガをさせてしまったときの対処法」)。マンション・アパートのエレベーターや共用廊下も、まさにこの「公共の場所」に該当する空間です。
② 飼い主が負う3層の法的責任
咬傷事故が発生した場合、飼い主には性質の異なる3種類の法的責任が同時に発生する可能性があります。
「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」と定められています。一般の不法行為責任(民法709条)と異なり、被害者側が飼い主の過失を証明する必要はなく、飼い主側が「相当の注意を払っていた」ことを証明できなければ、責任を免れません(出典:兵庫県弁護士会「くらしの法律相談」)。
「過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する」と規定されています(過失傷害罪)。重傷を負わせた場合や悪質性が高いと判断された場合は、より重い罪に問われる可能性もあります(出典:楽天保険の総合窓口「愛犬が人や犬を噛んでケガをさせたら?」)。
「動物の所有者又は占有者は、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」とされています。罰則はありませんが、飼い主としての基本姿勢を定めた規定です(出典:渡邉アーク総合法律事務所「咬みつき事故(咬傷事故)」)。
③ 【義務】24時間以内の保健所届出
意外と知られていないのが、咬傷事故発生時の行政への届出義務です。東京都動物の愛護及び管理に関する条例第29条第1項では、「飼い主は、飼養する動物が人の生命又は身体に危害を加えたときは、事故発生の時から24時間以内に、知事に届け出なければならない」と定められています(出典:文京区「文京区内で飼い犬が人を咬んだとき・犬に咬まれたとき」、東京都動物愛護相談センター)。
さらに同条第2項では、「犬の飼い主は、その犬が人をかんだときは、事故発生の時から48時間以内に、その犬の狂犬病の疑いの有無について獣医師に検診させなければならない」とも定められています(出典:ペットのほうりつ.com「飼い犬が人を噛んだら届出が必要!罰則あり!」)。これらの届出・検診義務を怠った場合、罰則の対象となる可能性があります(出典:弁護士保険ステーション)。
出典:江戸川区・文京区公式ホームページ、東京都動物の愛護及び管理に関する条例第29条を基に構成(自治体により詳細な運用は異なります)
④ 実際の判例に見る賠償額
実際の裁判例を見ると、咬傷事故の賠償額がどのように判断されているかが分かります。
犬同士のかみつき事件について、東京地方裁判所は飼い主に対し、治療費や慰謝料など計約15万7,000円の賠償を命じました。被害を受けた動物が人間ではなく他の動物であっても、事故状況や被害の程度によっては賠償責任が認められることを示す事例です。
出典:弁護士法人一新総合法律事務所「犬同士の咬みつきで、飼い主に責任が認められるか?」別の裁判例では、犬に襲われて死亡した猫(18歳・高齢)の飼い主に対し、慰謝料20万円の支払いが命じられました。裁判所は「高齢で死期が近い状況にあったとしても、精神的苦痛はむしろ飼育期間に比例して増大する」として、慰謝料の減額事由にはならないと判断しています。
出典:同事務所解説記事リードを外せるドッグランで、広場を横切っていた人が日本犬と衝突し骨折した事案では、裁判所は「犬が走り回る広場に人が出入りすることは通常考えにくく、異常な事態」と判断し、飼い主の損害賠償責任を否定しました。被害者側の過失が大きい場合は、飼い主が免責される可能性もあることを示す例です。
出典:アトム法律事務所弁護士法人「咬傷事故で飼い主に慰謝料を請求できる?」⑤ 【内訳】賠償額はどう決まるのか
咬傷事故で請求されうる費用は、治療費だけではありません。主に以下の項目が組み合わさって賠償額が算定されます(出典:アトム法律事務所弁護士法人「咬傷事故で飼い主に慰謝料を請求できる?」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 治療費 | 診察・処置・投薬など、実際にかかった医療費 |
| 通院交通費 | 通院にかかった実費 |
| 休業損害 | 負傷により働けなかった期間の収入減少分 |
| 逸失利益 | 後遺症が残った場合の将来にわたる収入減少分 |
| 慰謝料 | 精神的苦痛に対する補償。交通事故の賠償基準が参考にされることが多い |
軽傷のケースでは、通院数回程度で慰謝料部分が数万円程度となる相談例も報告されていますが、後遺症が残るような重傷の場合は、労働能力喪失率の算定なども絡み、金額が大きく変動します。等級認定の専門機関がないため、被害者側が後遺症の程度を自ら立証する必要がある点も、交通事故とは異なる特徴です(出典:弁護士法人小杉法律事務所「犬に噛まれた時の慰謝料相場や計算方法は?」)。
⑥ 賃貸物件特有のリスクポイント
戸建てと異なり、賃貸マンション・アパートには「共用部分」という特有のリスクがあります。エレベーター内は特に、犬と人が密着した状態ですれ違う空間です。他の入居者が急に手を伸ばしてきたり、別のペットと鉢合わせたりすることで、思わぬ事故が起きる可能性があります。
共用廊下や玄関周りでの事故についても、基本的には動物占有者である飼い主が責任を負いますが、共用部の設備に明らかな不備があった場合など、状況によっては管理会社側の責任が問われる可能性もゼロではありません。個別の状況によって判断が異なるため、日頃からの管理の徹底が何より重要です。
⑦ 備えるための保険、4つの選択肢
咬傷事故に備える保険としては、主に以下の4種類が挙げられます(出典:楽天保険の総合窓口「愛犬が人や犬を噛んでケガをさせたら?」)。
ペット保険に付帯できる特約。ペット関連の事故に特化した補償内容になっている。
日常生活の中で他人に損害を与えた場合に幅広く対応。ペット事故以外の場面でも活用できる。
既に加入している火災保険や自動車保険に、個人賠償責任特約として付帯できる場合がある。
一部のクレジットカードには、個人賠償責任保険が自動付帯されている場合がある。補償内容の確認が必要。
複数の保険に重複して加入していても、実際に受け取れる保険金は支払った実費の範囲内です。加入状況を整理し、示談交渉サービスや弁護士費用の補償が付いているかどうかも確認しておくと安心です(出典:同資料)。
⑧ 事故を未然に防ぐための対策
☐ エレベーター・共用廊下では必ずリードを短く持ち、キャリーバッグの活用も検討する
☐ 初対面の人・動物との接触は、飼い主が主導して距離を管理する
☐ 「どうぞ触ってください」と安易に勧めず、犬の状態を見て判断する
☐ リードの長さ・強度を定期的に点検する
☐ しつけ教室等を活用し、警戒心の強さや反応をあらかじめ把握しておく
☐ 個人賠償責任保険への加入状況を確認する
⑨ もし事故が起きてしまったら——対応の流れ
万が一事故が発生してしまった場合、まずは被害者の状況確認と応急処置を最優先してください。そのうえで、以下の対応を落ち着いて進めることが重要です(出典:弁護士保険ステーション「犬が他人に噛みつきケガをさせてしまったときの対処法」)。
☐ 被害者の治療を最優先し、必要に応じて救急要請する
☐ 24時間以内に保健所へ事故発生届出書を提出する
☐ 48時間以内に犬の狂犬病検診を受けさせる
☐ 安易なその場での示談は避け、まずは連絡先を交換する
☐ 加入している保険会社に速やかに連絡する
☐ 医師の診断書、領収書、事故状況の記録を保管する
⑩ よくある質問
Q. 小型犬でも咬傷事故の責任は同じですか?
A. はい、民法718条は犬種やサイズを問わず適用されます。ただし、賠償額の算定において「相当の注意」の判断材料として犬の性質・体格が考慮されることはあります。
Q. 相手が勝手に犬を触ってきて噛んでしまった場合も責任を負いますか?
A. 状況によります。飼い主が「どうぞ」と促していた場合は責任を問われやすくなりますが、無断で急に触られたなど被害者側の過失が大きい場合は、過失相殺や免責が認められることもあります。個別の事情によって判断が異なるため、専門家への相談をおすすめします。
Q. 賃貸物件を探す際、咬傷事故のリスクを踏まえて何を確認すべきですか?
A. エレベーターの広さや共用廊下の動線、他の入居者とすれ違いにくい設計かどうかは、内見時に確認しておきたいポイントです。当社では、こうした観点も踏まえた物件のご提案を行っています。
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