
留守中に犬が吠えていたと言われたら?賃貸で最初にやる5ステップと、契約解除になる境目【データで検証】
- 「留守中に吠えていました」と言われて――まず知っておきたい苦情の構造
- 犬の吠え声は何dB? 小型犬でも80dB――数字で見る「聞こえてしまう」理由
- なぜ留守中に吠えるのか――原因は「寂しさ」だけではない
- 苦情が来た日の初動5ステップ――「謝る・調べる・伝える」の順番が大切
- 留守中の様子を「見える化」する――録音・録画で確かめる3つの方法
- 犬側の対策①:環境を整える――サークル・視界の遮断・留守番の「基地」づくり
- 犬側の対策②:行動を整える――運動・知育玩具・「留守番の練習」
- 賃貸でできる防音の工夫と、退去時に困らない「原状回復」の注意点
- 管理会社・隣人への伝え方――誠意が伝わる連絡のコツと例文
- 契約解除になる境目――「受忍限度」と「信頼関係の破壊」
- それでも難しいとき――「住み替え」も前向きな選択肢。物件選びでチェックしたい点
- よくある質問(Q&A)
- まとめ――留守中の吠えは「見える化」から、そして「誠実な対応」で乗り越える
「留守中に吠えていました」と言われて――まず知っておきたい苦情の構造
ある日、管理会社から電話が入る。「昼間、お部屋から犬の鳴き声がするという連絡が複数ありまして」。あるいは、エレベーターで会った隣の方に「日中ずっと吠えてますよね」と言われる。ペット可の賃貸で暮らす飼い主さんにとって、これは決して珍しい場面ではありません。
多くの飼い主さんが最初に感じるのは、驚きと戸惑いです。なぜなら、留守中の様子は、飼い主本人にはほとんど見えないからです。出かけるときは静かに見送ってくれた。帰宅すると、尻尾を振って迎えてくれる。吠えていた気配なんてどこにもない――。この「見えない」ことこそが、留守中の無駄吠え問題をやっかいにしている最大の理由です。
① 留守中の吠えは、苦情が来て初めて気づくことが多い。まずは「本当に吠えているのか・何時ごろか」を録音や録画で確かめるのが第一歩。
② 吠え声は小型犬でも約80dB前後(5m地点の測定値)。夜間45dB・昼間55dBという住居系地域の環境基準との差は大きく、壁一枚で消えるレベルではない。
③ ただし、苦情が来た=即・契約解除ではない。裁判で争われるのは「受忍限度」や「信頼関係が壊れたか」で、注意を受けたあとの対応が結果を大きく左右する。
④ 対策は「犬の不安を減らす」「音を漏らさない」「近隣・管理会社に誠実に伝える」の3本立て。賃貸で壁や窓を傷つけずにできる方法も多い。
この記事では、犬の留守番中の吠え声の大きさを数字で確認したうえで、苦情が来た日の初動、原因別の対策、賃貸でできる防音の工夫、そして「契約解除になる境目」までを順番に整理します。ペット可物件の仲介を日々行っている立場から、現場で実際によく聞く困りごとも交えてお伝えします。
なお、本記事は一般的な情報提供であり、個別のトラブルに対する法的助言ではありません。すでに深刻な紛争になっている場合や、退去を求められている場合は、弁護士や自治体の相談窓口にご相談ください。
犬の吠え声は何dB? 小型犬でも80dB――数字で見る「聞こえてしまう」理由
「うちの子は小型犬だから大丈夫」と考えている方は少なくありません。しかし、数字を見ると印象が変わります。All About(オールアバウト)が環境省自然環境局の調査として紹介している、屋外・5m地点での吠え声の測定値は次のとおりです。
どの犬種も、5m離れた地点で普通車の走行音(79dB)に近い、あるいはそれを上回る数値が並びます。最も小さいポメラニアンでも80dBです。もちろん、すべての犬が常にこの音量で吠え続けるわけではありませんし、室内で壁やドアを隔てれば音は大きく減衰します。それでも、吠え声が「静かな住宅地」の暗騒音に比べて突出して大きい音であることは、数字がはっきり示しています。
犬の鳴き声の大きさについてPetsCare(ペッツケア)は、数メートル離れた地点での計測値として平均80〜100dB程度とし、距離による減衰の例として「約1.2mで95dBの鳴き声は約15m離れると約72dBまで下がる」と紹介しています。約72dBは、静かな夜の住宅の中では十分に「聞こえる」大きさです。
環境基準の「昼55dB・夜45dB」は、鳴き声に直接当てはまるわけではない
埼玉県の公表資料によると、騒音に係る環境基準のうち住居系のA・B地域は、昼間(6時〜22時)が55dB以下、夜間(22時〜6時)が45dB以下です。ただしこれは、道路交通騒音などを念頭に置いた「環境上の目標」であり、隣の部屋の犬の鳴き声に直接適用して「超えたら違法」と判断するものではありません。
実際、環境省の資料「生活騒音」では、近隣の生活騒音には法的規制はないとされています。解決の手段は、当事者間や住宅の管理人への相談、市区町村の相談窓口の利用で、自治体によっては騒音計を貸し出しているところもあります。つまり、犬の吠え声のトラブルは、デシベルの数値だけで白黒がつくのではなく、「どれくらいの頻度・時間・時間帯で続いているか」という総合判断になるということです。
なぜ留守中に吠えるのか――原因は「寂しさ」だけではない
留守中の無駄吠えというと、「寂しくて吠えているのでは」と思いがちです。もちろん分離不安(飼い主と離れることへの強い不安)が原因のこともありますが、現場でよく聞くのは、もう少し多様な理由です。高松市が公開している犬の鳴き声に関する啓発資料も、無駄吠えの原因を次のように整理し、それぞれに対策を示しています。
| 吠える場面・原因 | よくある様子 | 基本の対策の方向性 |
|---|---|---|
| 外の人・車・動物への反応 | 窓の外の物音、玄関前を通る人、郵便・宅配の来訪に反応して吠える | 外からの刺激を減らす(見えにくい場所に置く、視界を遮る) |
| 運動不足・ストレス | 散歩が足りず、エネルギーが余って吠える。留守中に発散できない | 体格・年齢・体力に合わせた散歩を確保する |
| 留守番時の寂しさ(分離不安) | 飼い主が出かけた直後から吠え続ける、帰宅の気配で興奮して吠える | フードを詰めるおもちゃなどで退屈と不安を和らげる |
| 要求吠え | 吠えると構ってもらえた経験から、「かまって」「ごはん」と吠える | 吠えている間は応じず、静かになってから反応する |
| 高齢犬の場合 | 夜間や留守中に理由なく鳴く。認知症が背景にあることも | 動物病院へ相談する |
日本の犬の行動問題を調べた研究も、吠えが身近な課題であることを示しています。山田らが2019年に『Journal of Veterinary Medical Science』に発表した、飼い主2,050人のオンライン調査では、86.0%の犬が何らかの問題行動を示していました。吠えに関しては、「家の中の物音への吠え」と「見知らぬ来訪者への吠え」が特に多い項目として挙げられています(具体的な割合は論文本文を参照)。
また、倉知らが2017年に『Applied Animal Behaviour Science』に発表した研究(東京・大阪・仙台のペットショップを通じた262頭の飼い主アンケート)では、過半数の飼い主が「愛犬に不安に関連した行動が見られる」と回答し、20%以上の飼い主がそうした行動に困っていると答えています。「うちの子だけが特別に問題児」なのではなく、犬が留守番中に不安や警戒を抱くのは、ごく一般的なことだと分かります。
原因の見分け方:吠えるタイミングを手がかりにする
- 出かけた直後に集中して吠える → 分離不安や「置いていかれた」ことへの反応の可能性
- 日中の特定の時間帯(宅配・ゴミ収集・下校時間など)に吠える → 外の物音や人影への反応の可能性
- 留守の間ずっとだらだらと吠える → 退屈・運動不足・ストレスの可能性
- 夜間や早朝に吠える → 夜鳴き、高齢犬の変化、環境の変化への不安の可能性
原因が違えば、効く対策も違います。「とにかく防音グッズを買う」前に、まず吠えるパターンを知ることが、遠回りのようで一番の近道です。
苦情が来た日の初動5ステップ――「謝る・調べる・伝える」の順番が大切
管理会社や隣人から「吠え声がする」と言われたとき、最初の対応が後々の展開を大きく左右します。反射的に「うちの子は吠えていません」と否定してしまうと、相手は「聞く耳を持たない人」と受け取り、苦情が管理会社からオーナー、さらに他の入居者へと広がるリスクがあります。逆に、事実が分からないまま過度に謝罪して「今後一切吠えさせません」と約束するのも危険です。次の5ステップで落ち着いて対応しましょう。
・苦情を言った隣人を詮索・非難する
・口頭で「絶対に吠えさせない」と約束する(実際には完全な制御が難しい)
・何も対策せずに時間が経つのを待つ
特に最後の「何もしない」が最も危険です。後の章で触れるとおり、法的な判断では「注意を受けたのに改善しなかった」ことが重く見られるからです。逆に言えば、誠実に対策を重ね、その経過を残しておくことが、飼い主さんにとって最大の防御になります。
留守中の様子を「見える化」する――録音・録画で確かめる3つの方法
対策の第一歩は、留守中の愛犬の様子を知ることです。「たぶん吠えているだろう」という推測のまま防音グッズを買い込んでも、原因と合っていなければ効果は期待できません。費用をかけずに始められる順に、3つの方法を紹介します。
方法①:スマートフォンの録音・録画アプリ(費用ほぼ0円)
古いスマートフォンや、使っていないタブレットがあれば、録音アプリを起動したまま部屋に置いて出かけるだけです。帰宅後に再生して、吠え始めた時刻と継続時間をメモします。注意点は、バッテリー切れと、通知音・着信音が鳴らない設定にしておくことです。電源につなぎっぱなしで、機内モードにしておくと安心です。
方法②:ペットカメラ(数千円〜)
音だけでなく、愛犬が「何に反応して」吠えているかが映像で分かるのが利点です。窓の外を見て吠えているのか、玄関のドアの前で吠えているのか、飼い主の姿を探して落ち着きなく歩き回っているのかで、対策は変わります。ただし、カメラの設置場所によっては賃貸の規約で壁に穴を開けられないこともあるため、置き型や貼って剥がせるタイプを選びましょう。
方法③:近隣・管理会社からの情報を整理する
管理会社を通じて、「いつ頃・どれくらいの時間」の苦情が来ているかを教えてもらいます。自分の記録と照らし合わせると、「平日の午前10時ごろ、30分程度」「宅配便が来る時間帯」といった傾向が見えてきます。
| 記録する項目 | メモの例 | 分かること |
|---|---|---|
| 開始時刻 | 8:20(出発の10分後) | 分離不安の可能性 |
| 継続時間 | 約25分で止まった | 一時的か、継続的か |
| きっかけ | 宅配のチャイムの直後 | 外の刺激が原因の可能性 |
| 犬の様子(映像があれば) | 窓際で外を見ながら吠える | 視界を遮る対策が有効 |
この記録は、管理会社や隣人に対策を説明するときの「誠意の証拠」にもなります。「いつ頃、どんな対策をして、その後どう変わったか」を時系列で残しておくと、万が一トラブルが長引いたときにも役立ちます。
犬側の対策①:環境を整える――サークル・視界の遮断・留守番の「基地」づくり
原因が分かったら、いよいよ対策です。最初に取り組むべきは、犬が留守番をする「環境」を整えること。ペット用品の情報サイトなどでも共通して推奨されているのが、行動範囲を制限する方法です。
アットホームのペットコラムでも、留守番中は家中を自由に動かせるのではなく、サークルに入れたり、一部屋に限定したりして行動範囲を制限することが効果的だと紹介されています。見張る範囲が狭くなると、物音に反応する機会が減り、不安も和らぐとされています。広いお部屋で一頭きりだと、犬は「自分が守らなければならない範囲」が広く感じられ、警戒吠えが増えることがあるのです。
留守番スペースづくりのチェックリスト
- 玄関や窓から離れた場所に置く。宅配や来客、隣室の物音に反応しにくくなります
- 窓の下半分に目隠しシートを貼る。貼って剥がせるタイプなら、原状回復の面でも安心です
- ケージやサークルの一部を布やカバーで覆う。視界が遮られて落ち着く犬は多く、音の漏れ方も和らぎます
- お気に入りの毛布やおもちゃを置き、飼い主のにおいが残るものを用意する
- 夏冬の温度管理(エアコンのタイマー・ペット用ヒーター等)。暑さ寒さの不快感も鳴く原因になります
アットホームの記事では、夜間にケージへ防音素材や防音カバーを使う方法も紹介されています。賃貸の壁や床を傷つけずに「発生源のそば」で音を受け止められるため、賃貸との相性が良い対策です。
犬側の対策②:行動を整える――運動・知育玩具・「留守番の練習」
環境を整えたら、次は犬自身の「心と体の状態」にアプローチします。高松市の啓発資料にもあるとおり、運動不足によるストレスには、体格・年齢・体力に合わせた散歩が基本。留守番時の寂しさ(分離不安)に対しては、フードを詰めるおもちゃなどで退屈を防ぐ方法が紹介されています。
出発前の「ひと工夫」で留守番中の吠えが変わる
一方で、しつけだけで留守中の吠えをゼロにするのは、現実的には難しいことも事実です。犬の性格や年齢、飼育環境によって、改善の速さには大きな個体差があります。分離不安が強く疑われる場合や、自分での対処に限界を感じた場合は、かかりつけの動物病院や、行動診療・トレーニングの専門家に早めに相談しましょう。症状の背景に健康上の問題が隠れている場合もあります。
賃貸でできる防音の工夫と、退去時に困らない「原状回復」の注意点
アットホームの記事でも指摘されているとおり、賃貸物件で専門業者による防音工事を行うのは、費用がかかるうえ、大家さんや管理会社が応じてくれないことも多く、現実的ではありません。そこで、賃貸でも取り入れやすい方法を「音の伝わり方」から整理します。
「吸音」と「遮音」は別物
防音グッズを選ぶときに混同しやすいのが、吸音と遮音です。吸音は、部屋の中で音が反響するのを和らげること。遮音は、音が壁や窓を通って外へ出ていくのを遮ることです。賃貸で手に入りやすい吸音パネルや薄いマットだけで、隣室への音漏れが大きく減るとは考えにくく、期待しすぎないことが肝心です。「反響を和らげる」「窓や玄関ドアの隙間を減らす」「発生源のそばで受け止める」の3方向から、できる範囲で重ねていくのが現実的です。
| 対策 | 主なねらい | 賃貸での注意点 |
|---|---|---|
| 防音カーテン(厚手・多層) | 窓からの音漏れの軽減 | レールや突っ張り式で取り付ければ傷が付きにくい。2枚組で6,000〜12,000円程度の製品が目安(ブロガー記事の価格例) |
| ドア・窓の隙間テープ | 隙間からの音漏れの軽減 | 貼って剥がせるタイプを選び、退去時に糊残りしないか事前に確認 |
| ケージ・サークル用の防音カバー | 発生源のそばで音を受け止める | 通気に注意。夏場の熱こもりを避ける |
| 床のマット・クッションフロア | 足音・爪音の軽減、滑り止め | 賃貸でもそのまま置ける。置き敷きタイプなら原状回復の心配が少ない |
| 壁用の吸音パネル | 部屋内の反響の軽減 | 両面テープを壁紙に直貼りすると、剥がすときに壁紙が傷むことがあるため、事前に管理会社へ確認 |
取り付けや設置の方法によっては、退去時の原状回復で借主負担になる可能性があります。ある賃貸向け防音ガイドでは、画鋲程度の穴は通常損耗として扱われることが多い一方、両面テープによる壁紙の剥がれや変色は借主負担になりうると注意しています。設置前にお部屋の写真を撮り、迷う場合は管理会社に確認するという習慣を持っておくと安心です。
ペット可物件の「特約」も一度見直しておく
契約書の特約欄に、ペットの鳴き声や臭い、傷に関する条項がないかを確認しておきましょう。たとえば、「鳴き声等で他の入居者に迷惑をかけた場合は、改善の指示に従う」「改善されない場合は契約を解除できる」といった条項が入っていることがあります。内容を把握していれば、苦情が来たときに「どの段階で何を求められているのか」を冷静に判断できます。
管理会社・隣人への伝え方――誠意が伝わる連絡のコツと例文
対策を始めたら、その内容を相手に伝えることが重要です。音の問題は、被害を受けている側が「何をしてくれているのか分からない」状態になると、不安と不信が募ります。逆に、「対応してくれている」と感じられれば、多少の吠え声があっても許容してもらえることが少なくありません。
管理会社への連絡例
私の方でも留守中の様子を録音して確認したところ、○時ごろに○分ほど吠えていることが分かりました。
現在、①留守番中の居場所を窓から離れた場所へ移動、②窓の目隠しの設置、③出発前の散歩の時間を延長、の3点を始めております。
今後も改善状況をお伝えいたしますので、引き続き状況に変化があればお知らせください。
隣人への挨拶・お詫びのポイント
- 菓子折りなどの高価な品は不要。かえって相手に気を遣わせることもあります。直接の言葉と、簡単なお詫びの手紙で十分です
- 「何時ごろ、どう対策するか」を具体的に伝える。「気をつけます」だけでは相手に伝わりません
- 連絡先(部屋番号と電話番号など)の扱いは管理会社に相談する。直接のやりとりに抵抗がある場合は、管理会社経由が無難です
- 引っ越し時や飼い始めのご挨拶を済ませておくと、後々の関係がぐっと楽になります。アットホームの記事でも、犬を飼い始めたら近隣への挨拶を済ませることが勧められています
環境省の資料「生活騒音」にも、解決のポイントとして「ご近所とのおつきあいを大切にする」ことが挙げられています。法律で線引きできない分野だからこそ、日ごろのコミュニケーションが最も効果的な「防音対策」になる場面は多いのです。
契約解除になる境目――「受忍限度」と「信頼関係の破壊」
最も気になるのは、「苦情が続いたら、退去を求められるのか」という点でしょう。結論から言えば、苦情が来たこと自体で、すぐに契約解除になるわけではありません。ただし、対応を誤ると、解除が認められる方向に傾くリスクがあります。ここでは、考え方の枠組みを整理します。
考え方①:受忍限度――通常の人が我慢できる範囲か
弁護士ドットコムの解説によれば、犬の無駄吠えだけが問題になる場合は、近隣騒音の紛争と同様に「受忍限度」が問われます。受忍限度とは、通常の人が我慢できる程度の騒音かどうかという基準です。ここで重視されるのは、音の大きさだけでなく、時間帯・継続時間・頻度・周辺の環境といった事情の総合的な評価です。
考え方②:信頼関係の破壊――貸主と借主の関係が壊れたか
賃貸借契約は、貸主と借主の信頼関係を基礎とする継続的な契約です。そのため、契約違反があったとしても、それが信頼関係を破壊するほどのものでなければ、解除は認められにくいというのが実務上の基本的な考え方です(いわゆる「信頼関係破壊の法理」)。
ペット不可物件での隠れ飼育を題材にした弁護士解説(ben54)によれば、信頼関係の破壊が認められやすいケースとして、①注意を受けても飼育を続けた場合、②多頭飼育で強い臭いや修繕できない傷が生じた場合、③鳴き声の騒音が深刻で他の住民の生活を著しく妨げた場合、などが挙げられています。実際には、管理会社や大家がまず是正を指導し、協議で解決することが多いとも述べられています。
| 解除に傾きやすい事情 | 解除に傾きにくい事情 |
|---|---|
| 注意・警告を受けても改善の努力をしない | 注意を受けてすぐに対策を始め、経過を記録している |
| 深夜・早朝など、時間帯に配慮のない吠え声が続く | 吠える時間帯・頻度が限られ、改善傾向が見える |
| 複数の入居者から、繰り返し苦情が出ている | 管理会社を介して誠実にやりとりしている |
| 苦情者への逆恨み、威圧的な対応などがある | 近隣への挨拶・お詫びを済ませている |
裁判例から見える方向性
判例解説サイト(mc-law)では、犬の飼育に関する賃貸借解除の裁判例として、次の2件が紹介されています。
- 東京地裁 昭和54年8月30日:賃借人が住宅のベランダで犬を飼育し、糞尿や吠え声が生じた事案。他の入居者に被害を及ぼしたことを理由に、賃貸借契約の解除の正当事由を認め、明渡請求を認容。
- 東京地裁 平成7年7月12日:賃貸借契約に犬の飼育を禁止する特約があったのに犬を飼育した事案。犬の飼育は建物への損害や他の居住者への迷惑のおそれがあり、鳴き声などがその例として挙げられ、禁止特約には合理性があるとして、特約違反による解除を有効と判断。
ここで注意したいのは、いずれの裁判例も「ペット可」物件で、適切に飼育していた場合の事案ではない点です。前者は他の入居者への被害が重く認定された事案、後者はそもそもペット禁止の特約に反した事案です。ペット可物件で飼育のルールを守り、苦情が来たら改善に努めている飼い主が、直ちに同じ結論になるとは限りません。とはいえ、「他の入居者に被害が及ぶほど放置した」と評価されることが、リスクを高めるという方向性は押さえておくべきでしょう。
・録音・録画で状況を把握し、対策の内容を記録する
・管理会社には対策と経過を定期的に報告する
・それでも改善が難しいときは、動物病院・専門家への相談や、静かな物件への住み替えも早めに検討する
なお、法的な判断は個別の事情によって大きく変わります。すでに「契約解除の通知」「明渡しの請求」などが届いている場合は、自己判断で対応せず、弁護士や、自治体・不動産関連団体の相談窓口に早めにご相談ください。
それでも難しいとき――「住み替え」も前向きな選択肢。物件選びでチェックしたい点
さまざまな対策を重ねても、犬の性格や現在の建物の構造上、音の問題が解消しないことがあります。そのとき、無理に今のお部屋に留まり続けることだけが解決策ではありません。愛犬にとっても、ご近所にとっても、そして飼い主さん自身にとっても、より穏やかに暮らせる環境へ移ることは、立派な前向きの選択です。
国内のペット可物件は、まだ多くはありません。LIFULL HOME'Sの調査(2025年3月時点)では、賃貸物件に占めるペット可の掲載割合は19.3%、ペット飼育希望者の62.8%が「ペット飼育禁止」を理由に飼育を断念したと報じられています(弁護士解説メディアben54による紹介)。だからこそ、数少ないペット可物件の中から、音の面でも相性の良い物件を見極めることが重要です。
音の面で見ておきたいポイント
| チェック項目 | 見方 | 理由 |
|---|---|---|
| 建物の構造 | RC造(鉄筋コンクリート造)は、木造・軽量鉄骨造に比べて壁や床の質量が大きく、音を伝えにくい傾向 | 壁・床の遮音性は構造で差が出やすい |
| 部屋の位置 | 角部屋・最上階・1階は、隣接する住戸が少ない | 音が伝わる相手の数が減る |
| 窓・玄関の位置 | 共用廊下や通りに面した窓は、外部の物音で吠えやすい | 警戒吠えの引き金を避ける |
| 内見時の確認 | 室内で手を叩く・声を出して、廊下側・隣室側でどう聞こえるかを確認する | 実際の音の伝わり方を体感できる |
| 管理規約・飼育細則 | 頭数、サイズ、鳴き声に関する規定の有無 | 入居後の「想定外」を防ぐ |
アットホームの記事でも、内見の際に外からどの程度音が聞こえるかを確かめるとよいとされています。可能であれば、平日の昼間と夕方など、時間帯を変えて周辺の様子を見ておくと、実際の暮らしがイメージしやすくなります。
ペッターズ不動産では、構造・階数・角部屋・周辺環境など、「音」の観点を含めた物件選びのご相談を承っています。HPに掲載していない未公開物件も多数ございますので、お気軽にご相談ください。
よくある質問(Q&A)
まとめ――留守中の吠えは「見える化」から、そして「誠実な対応」で乗り越える
- 犬の吠え声は、小型犬でも5m地点で約80dB。壁越しでも聞こえるレベルの音量であることを前提に考える
- 近隣の生活騒音に法的な規制はない。デシベルだけでなく、時間帯・頻度・継続時間の総合判断になる
- 初動は「お詫び→事実の把握→応急対策→報告」の順。否定も、できない約束もNG
- 原因別に対策を変える。分離不安・外の刺激・運動不足・要求吠えで効く方法が違う
- 賃貸では「吸音」より「発生源のそばでの対策」と「隙間・窓」。原状回復の注意点は事前に管理会社へ確認
- 契約解除は「受忍限度」と「信頼関係の破壊」で判断。改善努力と記録が最大の防御になる
- 改善が難しければ、住み替えも前向きな選択肢。内見で音の伝わり方を確かめる
犬は、飼い主さんの帰りを待ちながら、不安な時間を過ごしているのかもしれません。その気持ちに寄り添いつつ、同じ建物に暮らす人たちへの気配りも忘れない――その両立ができれば、ペット可賃貸での暮らしは、犬にとっても人にとっても、ずっと心地よいものになります。
いまのお部屋のトラブル相談、住み替えのご相談もお気軽にどうぞ。
出典一覧
- All About「犬の吠え声」(環境省自然環境局の調査として掲載された犬種別dB)
- PetsCare「犬の鳴き声は何デシベル?」
- 埼玉県「騒音に係る環境基準」
- 環境省「生活騒音」
- 高松市「犬の鳴き声の迷惑」啓発資料
- アットホーム「犬の無駄吠え」
- Yamada R. et al. (2019) J Vet Med Sci 81(8):1090-1096
- Kurachi T. et al. (2017) Appl Anim Behav Sci(日本の犬の不安障害に関する研究の紹介)
- 弁護士ドットコムニュース(犬の鳴き声と受忍限度)
- mc-law 犬の飼育に関する賃貸借解除の裁判例
- ben54「ペット不可物件の隠れ飼育と信頼関係の破壊」
- Bloomeria 賃貸の防音ガイド(価格例・原状回復の注意点)
