「丁寧に使っていたつもりなのに、退去時に予想外の高額請求が来た」——こうした声は、国民生活センターに実際に寄せられた相談の中にも多く見られます。タバコのヤニや原状回復費用だけでなく、鍵交換・クリーニング代の二重請求・立会いなしでの一方的な金額提示など、退去時のトラブルは実に多様です。
この記事では、実際に報告された相談事例をもとに、退去時にどんなトラブルが起きやすいか、そして契約前・入居中・退去時のそれぞれの段階でできる対策を解説します。
① 6年半住んだ部屋でクロス全面張替え約14万円を請求された
「クロスの張替えはいつも全面でやっている」と言われ納得できない金額を請求
家賃約10万円・敷金約20万円の3LDK賃貸マンションに約1年半居住して退去。退去立会いの際、「クロスは退去の際にいつも全面張替えをしている」と説明された。納得できないと伝えたところ金額は当初より減額されたが、各部屋のクロス張替え費用約14万円に加え、契約書の特約にあるハウスクリーニング費用と合わせて約20万円を請求された。ハウスクリーニング費用は契約時に説明があり明記されているため支払う意向だが、クロス張替えについては契約書に記載がなく、入居前からあった傷も費用に含まれているため納得できないという相談。
ポイント:国土交通省ガイドラインでは、傷・汚損がある場合でも原則「最小単位(壁の1面など)」の補修が基準であり、契約書に記載のない「全面張替えが当然」という説明は根拠が乏しい可能性があります。入居前からあった傷を含めることも不適切です。
② 立会いなしで原状回復費90万円を請求された
退去立会いがないまま一方的に高額な清算書が届いたケース
家賃約7万円・敷金礼金なし・築17年の賃貸アパートに4年前に入居し、先日退去。退去後、管理会社から清算書が届き、原状回復費用として約90万円を請求された。納得できず見直しを要求したところ70万円に減額されたが、入居時には前の住人が汚した壁紙・フロアマットがそのまま残っており、当時の管理会社の担当者もそれを確認していた。退去にあたり立会いは行われず、通常の清掃を行い普通に住んでいただけだったという相談。
ポイント:入居時にすでに存在していた汚損は、原則として借主の負担にはなりません。立会いがないまま提示された金額に根拠(内訳・写真等)がない場合、見直しを求める交渉が可能です。実際にこのケースも要求により30%以上減額されています。
③ 入居時に払ったクリーニング代を退去時にも請求された
「退去時は不要」と説明されたのに、退去時にも請求された二重請求
賃貸マンションの入居時にルームクリーニング代を支払った際、担当者から「退去時のルームクリーニング代は不要」と説明を受けていた。しかし実際に退去したところ、退去時にも改めてクリーニング代を請求され納得できないという相談。
ポイント:入居時の説明と実際の請求内容が異なる場合、契約時の説明記録(メール・書面・録音など)が交渉の重要な証拠になります。口頭での説明だけだと「言った言わない」になりやすいため、契約時の説明は可能な限り書面やメールで残してもらうことが望ましいです。
④ 鍵を1本紛失し、見つかったのに交換費用を請求された
紛失した鍵が見つかったあとも交換費用を請求されたケース
マンション退去時、受け取った鍵(本キー)2本のうち1本を紛失していたため、退去立会い時に紛失分の費用を請求された。重要事項説明書には「退去時に鍵紛失の場合は2万円を徴収する」と明記されており、契約上は仕方ないと納得していた。しかし10日後に紛失していた鍵が車内から見つかったため管理会社に連絡したところ、「解約時に返却がなかったので(請求は)無理(取り消せない)」と回答されたという相談。
ポイント:契約書・重要事項説明書に鍵紛失時の費用の記載があれば、その特約は基本的に有効と判断されます(最高裁判例あり)。鍵は退去日までに必ず探し出し、全数返却することが重要です。なお国交省ガイドラインでは、入居者の入れ替わりに伴う鍵交換は「貸主負担が妥当」とされていますが、紛失による交換は別の話として借主負担になるのが実務上一般的です。
⑤ これらの実例から見える共通の原因
4つの事例を見ると、トラブルが起きる背景にはいくつかの共通点があることがわかります。
| 共通の原因 | 該当する実例 | 防ぐための対策 |
|---|---|---|
| 口頭説明のみで記録が残っていない | 実例③(クリーニング代) | 説明はメール・書面で残してもらう |
| 入居時の部屋の状態を記録していない | 実例②(立会いなし) | 入居時に必ず写真・メモを残す |
| 「いつもこうしている」という慣習任せの説明 | 実例①(全面張替え) | 国交省ガイドラインと照合して確認 |
| 退去時の物品(鍵など)の最終確認不足 | 実例④(鍵紛失) | 退去前に貸し出された物を全数確認 |
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、国土交通省が裁判例や取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について妥当と考えられる一般的な基準として策定したものです。法的拘束力はありませんが、賃貸借契約の当事者間で行き違いが生じた際の話し合いの土台として広く活用されています。
出典:国土交通省「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について」⑥ 契約前・入居中・退去時にできる対策
【契約前】特約・原状回復の範囲を必ず確認する
「ハウスクリーニング費用は全額借主負担」「鍵紛失時は○円徴収」といった特約は、契約書に明記されていれば原則有効です。署名前に必ず目を通し、不明点はその場で確認しましょう。(出典:国土交通省「賃貸住宅の入居・退去に係る留意点」)
【入居時】部屋の状態を貸主と一緒に確認し、写真とメモを残す
キズ・汚れの有無、エアコンなど備え付け設備の動作確認を、できる限り貸主側と一緒に行い、写真・メモで記録しましょう。これが将来の「入居前から傷があった」という主張の最大の証拠になります。(出典:国民生活センター)
【入居中】設備の不具合は早めに、必ず貸主側へ連絡する
エアコンや給湯器の不具合、雨漏りや水漏れが起きた場合はすぐに貸主側へ連絡しましょう。修繕は原則貸主側の義務です。無断で修繕すると、退去時の精算でトラブルになる可能性があります。(出典:国民生活センター)
【退去前】鍵など借りた物をすべて回収・確認する
鍵(本キー・スペアキー)はすべて手元に揃っているか、退去日の前に必ず確認しましょう。紛失したまま立会いに臨むと、その場で交換費用を請求される可能性があります。
【退去時】立会いでもう一度、写真とメモで現状を記録する
退去時も入居時と同様に、できる限り貸主側と一緒に写真撮影・メモを取りながら現状を確認しましょう。請求内容に納得できない場合は、その場で署名せず「持ち帰って確認します」と伝えることが大切です。
納得できない請求が来たら:国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に、貸主側に説明を求めましょう。話し合いで解決しない場合は、お住まいの自治体の消費生活センター(消費者ホットライン「188」)に相談できます。(出典:国民生活センター)
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⑦ よくある質問(Q&A)
⑧ まとめ
この記事のポイント
- 実例①:「いつも全面張替え」という慣習説明だけでは根拠が乏しく、交渉で減額された事例がある(国民生活センター)
- 実例②:立会いなしの一方的な請求(約90万円)も、交渉により減額(70万円)された事例がある
- 実例③:入居時の説明と異なる請求(クリーニング代の二重請求)は記録があれば交渉材料になる
- 実例④:鍵紛失による交換費用は、後から鍵が見つかっても返金されないことが多い。退去前の全数確認が重要
- 共通の対策:契約前の特約確認・入居時の写真記録・設備不具合の早期連絡・退去前の持ち物確認・退去時の記録
- 納得できない請求には、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を根拠に交渉を。解決しない場合は消費生活センター(188番)へ
退去時のトラブルは「知らなかったから損をする」というケースが大半です。今回ご紹介した実例のように、記録と正しい知識があれば、不当な請求の多くは交渉によって見直してもらえる可能性があります。
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