「エアコンが壊れたのに大家さんから連絡がない」「給湯器が故障してお湯が出ないまま1週間経つ」——設備故障に対する貸主の対応の遅れは、賃貸トラブルの相談の中でも頻出の問題です。
実は2020年の民法改正によって、設備故障に対する借主の権利が大きく強化されました。「泣き寝入りするしかない」と思っていた方も、正しい知識を持てば適切な対処ができます。この記事では、費用負担の原則から賃料減額・緊急修理・相談先まで、ステップごとに解説します。
① 2020年民法改正で何が変わったか
設備故障トラブルを理解するうえで、まず2020年4月に施行された民法改正の内容を知っておく必要があります。この改正は、賃貸住宅の借主にとって非常に重要な権利強化を含んでいます。
「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、当然に減額される」
2020年の民法改正で、設備の一部減失により賃料減額について、改正前は「賃料の減額が請求できる」としていましたが、改正後は「当然に賃料は減額される」となり、より明確になりました。入居者がわざとまたはうっかり不具合を起こした場合を除き、トイレやエアコンなどの一般的な設備故障は、大家さんが修理する義務があります。対応が遅れると入居者が不便を強いられることも考えられ、その場合は当然に賃料が減額されることになりました。
出典:エイブル「民法改正で設備故障の賃料減額が当然に!」/ テクトピア「賃貸物件の設備が故障した時の修理費用は誰が負担する?」(2025年12月)①借主が貸主に修繕が必要な旨を通知したにもかかわらず、貸主が相当の期間内に修繕しないとき、②急迫の事情があるとき、は借主が修繕を行うことができ、その費用を貸主に請求できると明記されました。
重要なポイント:「大家さんが修理してくれない」という状況でも、借主には「賃料減額」と「自己修理+費用請求」という2つの強力な権利が法律で保障されています。泣き寝入りは不要です。
② 設備故障の費用負担——貸主と借主、どちらが払う?
設備が壊れたとき、修理費用を誰が負担するかは「なぜ壊れたか」によって決まります。
「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」
| 故障の原因 | 費用負担 | 具体例 |
|---|---|---|
| 経年劣化・通常使用による摩耗 | 貸主(大家)負担 | 10年使ったエアコンが冷えなくなった・給湯器が寿命で壊れた |
| 原因不明の突然の故障 | 貸主(大家)負担 | 水道から突然水が出なくなった・照明設備が急に壊れた |
| 借主の故意・過失による破損 | 借主負担 | 掃除中に部品を壊した・物をぶつけてエアコンを損傷させた |
| 借主の不適切な使用 | 借主負担 | フィルター掃除を長期間放置して故障した・説明書に反した使い方 |
| 放置による悪化 | 借主負担になる場合 | 雨漏りを放置してカビ・床腐食が拡大した・ガス管の腐食を放置 |
賃貸物件に備え付けられたエアコンが故障した場合、修理費は基本的に大家さんや管理会社(貸主)が負担します。これは民法第606条1項で「賃貸人は設備の修繕義務を負う」と定められているためです。一般的にエアコンは10年を超えると故障が増えるといわれていますが、経年劣化や通常使用による故障であれば貸主が修理費を負担します。入居者の故意や不注意による場合のみ借主負担となります。
出典:アットホーム「賃貸物件のエアコンが故障!費用負担や対応方法を徹底解説」/ 民法第606条第1項重要な注意:契約書に「エアコン等の備品はサービス品とする」「修繕義務は借主が負担」という特約がある場合、貸主に修繕義務がないと解釈される可能性があります。入居時に契約書の設備欄・特約欄を確認しておくことが重要です。(出典:ホンダ水道エアコンサービス 2025年5月)
③ 主要設備別の故障対応まとめ
備え付けエアコンの経年劣化・通常使用による故障は貸主負担。ただし「サービス品」「残置物」として契約書に記載されている場合は借主負担になる可能性があります。フィルター掃除などの日常メンテナンスは借主の義務です。夏場の故障は生活への影響が大きいため、賃料減額の対象になりやすいケースです。(出典:アットホーム・民法第606条)
お湯が出ない状態は生活への影響が非常に大きく、緊急対応が必要な設備故障の代表格です。経年劣化による故障は貸主負担。管理会社が全国9,781戸を管理するランドネットのデータでは、給湯器の場合「故障の連絡を受けてから3日が免責期間」としており、この間に修理・交換が完了すれば通常対応とされます。3日を超えても対応がない場合は賃料減額・自己修理の検討段階です。(出典:ランドネット 2025年11月)
水道管の腐食・排水管の詰まり(異物を流したなど借主の過失でない場合)・水漏れは貸主負担が原則。ただし異物を流して詰まらせた・蛇口のパッキン程度の小修繕(電球交換と同レベル)は借主負担になる場合があります。水漏れは放置すると被害が拡大し、下の階への被害も生じうるため即座の通報が必要です。
屋根・外壁の劣化による雨漏りは貸主の修繕義務の対象です。ただし雨漏りを放置してカビ・床の腐食が拡大した場合は、放置した部分について借主負担になる可能性があります。雨漏りを発見したら放置せず、すぐに管理会社に連絡・記録(写真撮影)することが重要です。(出典:テクトピア 2025年12月)
鍵の紛失・鍵穴の故障で鍵業者を呼んだ場合、鍵の紛失が借主の過失なら借主負担です。一方、ドアの建て付け悪化・窓の施錠機構の故障など経年劣化によるものは貸主負担が原則。鍵の交換費用を退去時に請求されるケースもありますが、セキュリティ強化目的の鍵交換は貸主負担とする考え方が有力です。
④ 「対応してもらえない」ときの賃料減額のしくみ
改正民法により、設備故障で使用できない状態が続いた場合、借主の請求がなくても「当然に」賃料が減額されます。では具体的にどの程度の減額になるのでしょうか。
改正民法では賃料をどの程度減額するかについての明確な基準が定められていないため、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を作成しています。このガイドラインは法的拘束力はありませんが、貸主・借主双方の交渉の目安として活用されています。
出典:HOMES不動産投資「エアコンが故障した場合の対応は?賃料減額の考え方と事例」/ 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」| 設備の不具合 | 免責期間の目安 | 減額割合の目安 |
|---|---|---|
| エアコンが使用不能(夏季・冬季) | 3〜7日程度 | 賃料の5〜10%程度 |
| 給湯器が使用不能(お湯が出ない) | 3日程度 | 賃料の10〜20%程度 |
| トイレが使用不能 | 2〜3日程度 | 賃料の20〜30%程度 |
| 水道(台所・洗面)が使用不能 | 2〜3日程度 | 賃料の15〜25%程度 |
| 雨漏りで居室の一部が使用不能 | 7日程度 | 賃料の5〜15%程度(使用不能面積に応じて) |
※ 上記はあくまで目安です。実際の減額は個別の状況・協議によって決まります。減額ガイドラインは法的拘束力がありません。
実務上のポイント:賃料減額は「当然に発生する」ものですが、実際には貸主・借主が協議して決めることになります。まず管理会社に書面(メール可)で「○○設備が故障しており使用できない状態が続いています。民法第611条に基づき賃料減額を求めます」と通知することが交渉の第一歩です。
⑤ 緊急時に借主が自分で修理できるケース
改正民法第607条の2により、一定の条件下では借主が自ら修理を行い、その費用を貸主に請求できるようになりました。
①貸主に修繕が必要な旨を通知した(または貸主が知っている)にもかかわらず、相当の期間内に必要な修繕をしない場合
②急迫の事情(緊急を要する場合)があるとき
この場合、借主が修理を行い、その費用(「必要費」に当たるもの)は貸主に対してただちに償還請求できます。
緊急修理が必要なときは借主による修理が可能で、そのために支出した費用が「必要費」にあたる場合には貸主に請求できます。ただし修理費の請求が認められるのは「使用および収益に必要な修繕」の範囲に限られます。例えばガス給湯器が故障したからといって勝手に電気給湯器にアップグレードしたり、雨漏りの補修のついでに屋根瓦の塗り替えも依頼したりといった行為は、使用収益の範囲を超えてしまい借主が費用を負担することになる可能性があります。
出典:高知県弁護士会「賃貸物件で借りている人が勝手に修理するのは違法なの?」/ テクトピア「賃貸物件の設備が故障した時の修理費用は誰が負担する?」(2025年12月)自己修理前に必ずすること:①管理会社・貸主に連絡し修繕依頼の記録を残す(メールが望ましい)②修理業者に依頼する前に見積もりを取り、貸主に確認する③修理後は領収書・明細書を必ず保管し貸主への請求に備える——の3点は最低限行ってください。無断での修理・グレードアップは費用請求が認められない場合があります。
⑥ 設備故障トラブルの正しい対処ステップ
故障を発見したら即座に記録・写真撮影
いつ・どの設備が・どのような状態で故障しているかを写真・動画で記録。日付が入るよう設定する。記録は後の交渉・請求で重要な証拠になります。
管理会社・貸主に書面(メール)で通知する
「○月○日、○○設備が故障しました。修繕をお願いします」と書面(メールが最適)で通知。口頭だけでは記録が残らないため、必ず文字情報で伝えること。送信日時が証拠になります。
「相当の期間」を過ぎても対応がない場合——賃料減額を通知
通知後に相当の期間(設備の緊急性による:給湯器なら3〜7日、雨漏りなら1〜2週間程度が目安)が過ぎても対応がない場合、「民法第611条に基づき賃料の一部減額を求めます」と書面で通知する。
緊急を要する場合——自己修理+費用請求(民法607条の2)
お湯が出ない・トイレが使えないなど緊急性が高い場合は、管理会社への連絡記録を保持したうえで業者に修理依頼。領収書を保管し貸主に費用請求する。修理範囲は「必要最低限」に留めること。
解決しない場合——消費生活センター・専門家への相談
消費者ホットライン「188」番(消費生活センター・無料)に電話で相談できます。貸主の対応が著しく遅い・不当な費用請求があるなどの場合は、弁護士(法テラス)や宅建業者相談窓口への相談も選択肢です。
⑦ やってはいけないNG行動
- NG① 管理会社への連絡なしに無断で修理する→費用請求が認められない可能性があります
- NG② 故障を放置する→悪化した部分の修繕費が借主負担になる可能性があります(特に雨漏り・ガス系)
- NG③ 修理の範囲を超えたグレードアップ工事を自己判断で行う→超過分は借主負担になります
- NG④ 口頭のみでの連絡・交渉→記録が残らず「言った・言わない」になります
- NG⑤ 「どうせ何も変わらない」と泣き寝入りする→2020年民法改正で借主の権利は強化されています。正しく行動すれば解決できます
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⑧ よくある質問(Q&A)
⑨ まとめ
この記事のポイント
- 2020年民法改正により設備故障による賃料は「当然に減額される」ことが明記(改正民法第611条)
- 経年劣化・通常使用による設備故障の修理費は原則貸主負担(民法第606条)
- 借主の故意・過失・放置による悪化は借主負担になる可能性がある
- 貸主が対応しない場合、借主は自己修理+費用請求ができる(改正民法第607条の2)
- 日本賃貸住宅管理協会のガイドラインでは給湯器故障で10〜20%・トイレ故障で20〜30%の賃料減額が目安
- 対処の順序:①写真記録→②書面で通知→③賃料減額通知→④自己修理+費用請求→⑤消費生活センター相談(188番)
- NGは:無断修理・放置・口頭のみ交渉・泣き寝入り
「修理してもらえない」という状況は決して珍しくありませんが、2020年の民法改正によって借主の権利は大きく強化されています。正しい知識と手順で行動することで、ほとんどの設備故障トラブルは解決できます。
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